書籍について

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大人から植えつけられた、偏見によって起こる「ホームレス」襲撃。
大人は「ホームレス」とどのように向きあい、子どもたちに伝えればいいのか。
問題を丁寧に解きほぐし、捉えなおす実践の記録。
中高生や教員向けに行なわれた講演3本を収録し、
「すぐに使える発問例集」や資料も充実。

価格:本体1,200円+税

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◆ 目次

  • はじめに
  • 【講演】高校生へ……「貧困」と「野宿」の社会的背景 <生田武志>
  • 【講演】教職員へ……「ホームレス」襲撃は、路上の「いじめ」 <北村年子>
  • 【付録】教員研修資料
  • 【講演】中学生へ……生きててくれてありがとう──襲撃・いじめをなくすために <北村年子>
  • 【付録】授業で使える 資料集
  • 【付録】学校ですぐに使える!  発問例集
  • 【付録】野宿者襲撃事件・略年表
  • 【付録】協力支援団体
    【付録】ホームレス問題の授業に役立つ 参考文献

※各稿は、講演をもとに再構成したものです。

◆ はじめに(本誌内容から)

「どうしてあんなところに人が寝ているの?」
 駅や地下の通路、公園や河原で、ホームレス状態の人の姿を見た子どもが、聞いてきたら、なんと答えますか?

 多くの子どもたちが、身近な大人からこんなふうに教えられています。
 「がんばるのがイヤな、なまけ者なんだよ」「こわい人。あぶないから近よっちゃだめよ」「働きたくなくて、好きであんな暮らしをしているのさ」
 そして、毎日のように子どもたちが、ホームレス状態の人に石を投げ、花火を打ちこみ、暴行する事件が、日本中のいたるところで起こりつづけています。

 巻末の「野宿者襲撃事件・略年表」を見ていただければ、一目瞭然です。これは、じっさいに起こっている事件の、ほんの一部です。1983年、10代少年たちによる「横浜浮浪者殺傷事件」から30年、野宿の人びとは、ただ「ホームレス」だという理由だけで、子どもたちに襲われ、殺されつづけているのです。「ホームレスは社会のクズ、役立たず」 「きたないゴミをそうじしただけ」「大人はしからないと思った」と、子どもたちは語っています。それは、わたしたち大人・社会、とりわけ教育の責任ではないでしょうか。
 「人権」問題は数あれど、教育現場でここまで放置され、無視しされつづけてきた被差別の問題は、ほかにありません。たとえば「障がい者」とは目をあわせるな、近づくな、と教えたらどうなるでしょう。「外国人」だからといって、いきなりエアガンで打ち、火を放つ事件が起こりつづけたら、大問題でしょう。野宿者の小屋や段ボールハウスは、しょっちゅう、子どもたちに放火されています。殺人未遂となる大事件でも、警察も、学校も、家庭も、地域も、政治も、マスコミも、本気で向きあい解決しようとはしてきませんでした。
 だれが「ホームレス」を排除し、差別しているのでしょうか。いまなお、くりかえされる暴行を止めようとせず、無視し、スルーしているのは、だれでしょう。無関心こそ暴力です。
 「ホームレス襲撃」は、子どもたちによる路上の「いじめ」です。それを見て見ぬふりしている大人たちは、「いじめの傍観者」と同じです。

 この本は、「ホームレス」について、正しく理解し、子どもたちに伝えようとする人、教師、親・保護者、子どもに関わるすべての大人たちのために、つくりました。そして、中高生世代の子どもたち、若い人たちにも、ぜひ読んでもらえるよう、ふりがなもつけました。
 まず、大人にも子どもにも、知っておいてほしいこと。
 「ホームレス」とは「人」を表わす言葉ではありません。
 生まれつき「ホームレス」という人種や人格があるわけでもありません。もともとの英語の「homeless」は、「状態」を表わす言葉であり、「安全に住めるところがない状態」のことをいいます。ですから、ネットカフェなどで寝泊りしている状態も、震災や原発事故で避難生活を強いられている状態も、住みこみ労働や会社の寮で暮らしている状態も「安心できる住環境にない状態」として、「homeless」と呼ばれます。
 つまり、あなたにも、わたしにも、家族にも、友人にも、だれにでも、いつ起こるかもしれない問題であり、けっして他人事ではないテーマなのです。

 子どもたちの野宿者襲撃をなくすために、という目的はもちろん、「ホームレス問題の授業」に取りくむ意義は、たくさんあります。
(1)「ホームレス」についての無知と偏見を解消することで、ホームレス状態にある人びとへの差別・攻撃・排除を、理解・支援・共生の意識へと転換していく。
(2)「路上のいじめ」とともに「教室のいじめ」の解消をめざし、あらゆる暴力を防止しする。
(3)子どもたちが、暴力の加害者にも被害者にも傍観者にもならない、安全で安心な教室(ホーム・ルーム)づくりをめざす。
(4)学校、家庭、地域のなかで、居場所のない「ホーム」レス状態にある子どもに、関心をむけ、孤立させず、見て見ぬふりしないで、それぞれに何ができるか考えあう。
(5)特定の子どもを「困った子」としてみなし、排除するのではなく、助けが必要な「困っている子」としてとらえ、「困っている状態」を改善・解決する道をいっしょに模索する。
(6)「ホームレス」の人びとと子どもたちが、人と人として出会い、肯定的な交流を体験することで、おたがいの存在を認あい、エンパワーされ、共感性と自尊感情を高めあう。
(7)教師・大人も、自分の「困っている状態」を「自己責任」として抱かかえこまず、「助けて」がいいあえる人間関係の構築をめざし、「関係の貧困」から脱却する。
(8)不況、天災、人災、さまざまな社会の変動、予期きせぬ人生の不運のなかで、将来もし自分がホームレス状態になったとしても、生きぬくための知恵や知識、私的・公的セーフティネットについてなど、人生に役立つ情報を学ぶ絶好の機会とする。
(9)教師・大人自身が、ホームレス問題の授業を実践する過程で、学校・社会にまだまだ根強い「努力主義」「自己責任論」の壁に気づき、内なる固定観念を問いなおされ、成長し、人間の幅が広がり、(たぶん)人生がいろいろおもしろくなっていく。
 などなど。そんなおもしろさに、ハマってしまった、全国各地の教師、支援者、仲間たちがつながりあって、生まれたのが「ホームレス問題の授業づくり全国ネット」です。
 この本を手にしてくださったあなたも、ぜひ、仲間になっていただけたらうれしいです。
 ようこそ、「ホームレス問題の授業づくり」へ。
 さあ、最初の一歩を踏みだし、ここからいっしょに、階段をのぼっていきましょう。

ホームレス問題の授業づくり全国ネット代表理事 北村年子

◆ 書評

icon_pdf本書の書評をご覧いただけます。(評者:札幌学院大学講師 大澤真平)