中学校(1)

中学校-1(総合的な学習の時間)

対象

 中学生

教科・領域

 総合的な学習の時間

教材観

 格差と貧困の問題は、ようやく日本社会の主要な課題として認識されるようになった。その先端的な課題が「ホームレス」問題である。すべての人に健康的で文化的な最低限の生活が保障されるはずの日本で、数万単位の人が住む家もなく路上や公園・河川敷・ネットカフェなどで生活することを余儀なくされており、社会から支援・保護よりも差別・偏見の対象とされている現状がある。「横断的・総合的な学習や探究的な学習を通して、自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育成する」という新学習指導要領の総合的な学習の時間の目標に照らしても、優先的に取り組む価値のある課題であろう。
 しかし、「ホームレス」とはいっときの生活の状態であり、他の人権課題とは違い、差別偏見にさらされている当事者がその生活を自らの口から語るということは難しい。そのため、この問題を共感的に理解し、問題を解決しようとする資質を育てることができる教材は今までほとんど開発されていなかった。
 本教材はその壁を乗り越え、当事者の声を教室に直接届けるだけでなく、夜回りをする同世代の子どもたちの姿をとらえることで、生徒1人1人が自分との関係を考える契機になる力があると考える。今もなお社会に強固な偏見差別が存在し、若者による「ホームレス」襲撃事件が起きている状況を変えるためにも、ぜひ本教材を利用した授業が全国の学校で取り組まれてほしい。

本時の目標

● 路上生活者の生活と路上生活に至る原因について知り、無知から来る偏見と差別を減らす。
● 若者による「ホームレス」襲撃事件が頻発している現状を知り、繰り返さないためには何が必要かを考える。

事前ワークシート(事前に書かせて回収しておく)

1, ホームレスの人に会ったことがありますか。
2, ある人はどこで会いましたか。話をしたことがありますか。
3, なぜホームレスになるのでしょうか。
4, ホームレスの人はどうやって食べ物などを得ていると思いますか。
5, ホームレス生活をしていて大変なこと・嫌なことはなんでしょうか。
6, ホームレスの人に対してどんなイメージがありますか。

●本時の展開 2時間連続
  学習内容 予想される生徒の反応と指導上の留意点
導入
15分
1)事前ワークシート( 以下WS)に書かれた内容を発表させ、多数意見・少数意見に分けながら生徒のイメージを整理する。
2)「ホームレス」とは状態を指す言葉であり、人を指す言葉でないことを確認する。
● 各項目について順番に発表。予めプリントしてもよい。
※生徒から差別的な笑いが出ることがあるだろうが、同調せず、しかしとがめることはしない。
※「ホームレス中学生」は正しい使い方。
展開
65分
1)DVD本編視聴 
2)WSに書かれた生徒のイメージの検証
●WSの3について、鈴木さんはなぜホームレスになった?
●失業して次の仕事が見つからないときはどうしたらいい?
●それらの「セーフティネット」が弱いために、仕事ができなくなるとすぐホームレスになってしまう人がいる。
●WS4について、鈴木さんはどうやって食べ物を得ていたか?
●他にはどんな方法があるだろう?
→アルミ缶や古雑誌回収・粗大ゴミ(主に電化製品)リサイクル、日雇いの仕事、炊き出し、コンビニなどの廃棄食品など。
●最初に出てきたおじさんは、1日でアルミ缶を10キロ集めたといっていた。いくらになる?
●近くの○○では、時給○○円でバイトを募集していた。みんなならどっちをやりたい?
●その店も高校生なら雇うだろうが、ホームレスのおじさんを雇ってくれるところはほとんどないだから段ボール生活から抜けられない。
●WS5の「大変なこと・嫌なことは」?
3) 襲撃について考える
●鈴木さんは誰から襲撃を受けた?
●襲撃事件は全国各地で起きていて、中学生が殺害してしまった事件も起きている。
※襲撃事件についてのプリントを配布・黙読
●路上生活の人をこわいと書いた人が多かったが、路上生活の人がこわいのは、みんなのような若者から襲撃されること。なぜこの人たちはホームレスの人を襲ったんだろうか?
●おじさんたちが苦労していることを知らないから、怠けているように見えて自分より低い人間と思ったのかもしれない。
●ある人を「自分よりも下」と決めつけて馬鹿にしたり暴力を振るったりすることをなんという?
●みんなはどんなときに人をいじめたくなるだろうか?
● たいていは、自分のイライラを他人にぶつける時だね。

●30分間

「警備員の仕事中に脳卒中になった」

「家族に助けてもらう・雇用保険をもらう・生活保護をもらう・・・」
※学年によって知識の差があるので実態に応じて解説する。

「段ボールを集めていた。1キロ6円」

●DVDにあった資源の価格表を板書。

「1キロ60円だから、600円」
※コンビニやファストフード店など、生徒に身近な店を例に挙げる。

「店でのバイトの方がいい」

「ご飯が食べられない・眠れない・襲撃される・・」

「4人組の高校生」
※プリントは時間的または地理的に近くで起きた中高生による襲撃事件についてあらましを書いたものを作成。

「仕事もしないで怠けてると思った・汚いと思った・むかついた・ストレスがたまっていた・・・」
※資料プリントの内容によって導き出される回答は変わる。

「いじめ」

「イライラしているとき・相手にむかついたとき・・・」

まとめ
10分
●鈴木さんは、襲撃した子どもたちについてなんと言っていた?
●路上生活をしながらそういう心を持っている人 もいる。それを知れば襲撃する人も減るかも知れない。みんなが誰かにイライラしていじめたくなったときは、これは自分の問題だと思い直してほしい。そして、こんな事件をなくすにはどうしたらいいかを考えてほしい。
※事後ワークシート配布・記入
「本当に悪いヤツはいない、襲撃されても恨みはしない・・」

事後ワークシート

1,この授業を受けて、路上生活の人への見方が変わりましたか。変わった人は、どのように変わりましたか。
2,もし、あなたが、友達から「一緒にホームレスをからかいに行こう」と誘われたらなんと答えると思いますか。
3,襲撃事件をなくすにはどうしたらいいでしょうか。
4,授業への感想・質問を書いてください。

icon_pdf回答集を見る

評価

●路上生活者の生活と路上生活に至る原因について理解し、無知から来る偏見と差別を減らすかえるきっかけができたか。
●若者による「ホームレス」襲撃事件が頻発している現状を知り、繰り返さないためには何が必要かを考えることができたか。

発展学習

1.自分たちの身近な地域の路上生活者の状況を知るために、地元の支援団体などに連絡して、外部講師を派遣してもらい、交流会を行います。その場合、あらかじめ生徒から質問を募り、事前に講師に送るとスムーズに進行できます。
2.路上生活当事者(経験者)を講師に招くと、より学習が深まります。ただ、生徒から差別的な質問や発言が出ることもあります。当事者を傷つけることにならないためにも、教員が十分な知識を持つ必要があります。
3.希望者を募って炊き出しなどの支援(ボランティア)現場で体験学習を行い、体験したことを発表します。参照。積極的に体験学習を受け入れている団体も多いですが、団体によっては活動内容が異なり、生徒の受け入れを行っていない場合もありますので、直接問い合わせてください。
4.ホームレス問題について、さらにテーマを設定して調べ学習を行い、発表する。

<テーマ例>

・格差と貧困
・ネットカフェ難民
・生活困窮者自立支援事業

・派遣切り
・生活保護
・セーフティネット など

(作成:清野 賢司)

感想文

●今回の授業で、「ホームレス」の事であっても「いじめ」であっても、自分が楽しければいいのではなく、今、自分がそういう状況でなくても、「こうすれば相手はどう思うか、どういう気持ちになるか」を考えることが大切だと深く思いました。また、できるかどうか分かりませんが、自分が大人になったら、ホームレスの人たちなどを助けたいと思いました。

●自分たちは普通に寝ているけど、ホームレスの人たちは安心して寝れないということを知って、これからは、全ての行動一つ一つに感謝したい。

●イメージだけでこの人はこういう人だと決めつけるのは、ダメなことだと思いました。今日は、ホームレス以外のことでもたくさんのことを学んだ。

●人の意見に流されて自分自身の意見を失うのは、恐ろしい事だと思った。人に流されて他の人を傷つけて悲しませるのは怖いから。

●今回の授業で、「ホームレス」の事であっても「いじめ」であっても、自分が楽しければいいのではなく、今、自分がそういう状況でなくても、「こうすれば相手はどう思うか、どういう気持ちになるか」を考えることが大切だと深く思いました。また、できるかどうか分かりませんが、自分が大人になったら、ホームレスの人たちなどを助けたいと思いました。

●自分たちは普通に寝ているけど、ホームレスの人たちは安心して寝れないということを知って、これからは、全ての行動一つ一つに感謝したい。

●イメージだけでこの人はこういう人だと決めつけるのは、ダメなことだと思いました。今日は、ホームレス以外のことでもたくさんのことを学んだ。

●人の意見に流されて自分自身の意見を失うのは、恐ろしい事だと思った。人に流されて他の人を傷つけて悲しませるのは怖いから。