小学校

はじめに

Still0313_00010 ホームレス問題は、小学校の子どもたちには無関係なのでしょうか。
 また、地域の中でホームレスの人たちと出会う機会がないから、子どもたちは知らなくていいのでしょうか。そんなことはありません。逆に、ホームレスの人たちのことを正しく知ることが大切です。

 教材用DVDの中でホームレスの人たちと出会い、子どもなりの素朴な疑問や感想をもとに、「ホームレス」の真の意味を考え、決して他人事ではないことに、子どもたちに気づいてもらいます。さらに、ホームレス状態に追いつめられた人たちへの差別や偏見、若者や子どもによるホームレス襲撃の事実から、これからどうしたらよいかを話し合います。さらに、身近に起きている子どもたちの弱者いじめと関係があることを知り、自分たちの生活に生かしてもらいます。
 子どもたちが学ぶことによって、私たち大人もともに学ぶことにつながります。ホームレスの人たちとの出会いを大切にして、家庭や地域へも学びの輪を広げていきましょう。
 今回、小学校の学年段階に応じて、中学年からを想定してみましたが、各学校の教育課程や人権教育の観点から、ホームレスの人たちとの出会いを学習の場に作っていただけたら、幸いです。

ホームレスの人々に対する小学生の認識

 ホームレスの人たちについて、小学生の子どもたちは、知らないことばかりです。家庭や地域の大人が、ホームレスの人たちの実状について正しく伝えていないのではないでしょうか。小学生の子どもたちに聞いてみると、次のような疑問が出てきます。

○「ホームレス」って、どんなこと?
○ どうして「ホームレス」になるの?
○「ホームレス」で大変なことはどんなこと?

小学校の学年段階ごとに配慮すること

●中学年

 この段階の子どもは、児童期の中でも活発になると言われています。例えば、学校生活に慣れ、行動範囲や人間関係が低学年より広がるようになります。また、社会的認識能力をはじめ思考力が発達し、視野が拡大するとともに、内省する心も育ってきます。感性や情操もさらに発達します。そのため、身近な人々と協力し助け合う態度への配慮が求められます。

●高学年

 この段階の子どもは、知識欲も旺盛で、集団における自己の役割の自覚もかなり進んでいます。そこで、自己や社会の未来への夢や目標を抱きながら、社会の現実を知り、社会の一員として主体的に生きていく力の育成が期待されます。

学習指導案(中学年)

・対象

 小学校第3・4学年

・教材観

 身の回りのお年よりとその暮らしを支援する仕組みや人々について学習する中で、ホームレスのお年よりや「子ども夜まわり」の活動について紹介し、関心を持たせたい。その出会いをきっかけに、身近な地域のお年よりとその暮らしを支援する仕組みや人々について調査し、子どもたちが主体的にかかわる活動につなげていきたい。
 ここでは、相手の立場になって考え、行動し、自分も相手も大切にしようとする気持ちを育てていきたい。

・本時の目標

 ホームレスのお年よりや「子ども夜まわり」の活動について知り、ホームレスのお年よりやその暮らしを支援する仕組みや人々について関心を持ち、自分なりの学習課題を設定できる。

●本時の展開(90分)
段階 学習の流れ(活動・内容) 留意点
導入
15分
1)身の回りのお年よりについて聞く。(5分)
●家におじいさんとおばあさんがいるよ。
●うちのおじいちゃんは運動して、元気だよ。
●うちのおばあちゃんは老人ホームにいるよ。
●一人で暮らすお年よりもいるのかな。
●児童の実態に応じて話題を提供する。
●地域のお年よりの状況や支援する関係機関や団体を事前に把握しておく。
 2 )ホームレスのお年よりについてについて聞き、学習のめあてを確認する。(10分)
●知らない。
●ホームレスの人って、どういう人?
●一人で路上等で生活するお年よりの存在について知らせる。
●ホームレスの人について知らない場合は、「家がなく路上等で生活する人」と説明する。
【ホームレスのお年よりについて考えてみよう。】
展開
60分
3)DVDを視聴する。(30分)
4)自分の感想や考えをワークシートに書く。(10分)
5)グループや学級全体で話し合う。(20分)
●どんな言葉かけをするか。
●どんなことができるか。
●ワークシートを配布し、メモをとりながら視聴できるようにする。
●自分なりの感想等が書けるように支援する。
●否定的な意見も切り捨てず、理解の過程を大切にする。
終末
15分
6)これから学習したいことや活動したいことを書く。(15分)
●地域のホームレスのお年よりについてもっと知りたい。
●困っているお年よりを助けたい。
●児童の主体的にかかわろうとする気持ちを大切にしたい。
●これからの活動の見通しを持たせる。
・次時以後の展開例

①身の回りのお年よりの困っていることについて調べ、自分たちでできることを話し合う。
②地域のホームレスの人やその暮らしについて調べ、自分たちでできることを話し合う。
③教材用DVDの中のホームレスの人やその暮らしを支援している「こどもの里」に手紙を書き、交流する。
④身の回りのお年よりとその暮らしを支援する関係機関や団体の人の話を聞き、自分たちでできることを話し合う。
⑤学習したことをレポートや劇などにまとめ、発表する。

事後ワークシート(中学年)

「ホームレスのお年よりについて考えよう」

1)DVDを見て、はじめて知ったことや感じたことを書きましょう。
2)あなたなら、ホームレスのお年よりにどんな言葉をかけますか。
3)あなたなら、ホームレスのお年よりにどんなことができますか。
4)これから学習したいことややってみたいことはなんですか。

学習指導案(高学年)

・対象

 小学校第5・6学年

・教科・領域

 道徳「公正公平・正義」「生命尊重」「思いやり・親切」

・教材観

 社会的な差別や不公正さなどの問題について気づき、公正で公平な態度を養うことをねらいとしたい。また、弱者いじめ等の身近な差別や偏見についても考え、実生活に生かしていきたい。

・本時の目標

 ホームレスの人たちや支援する人たちを知って、それぞれの気持ちやホームレス襲撃の理由について考え話し合うことを通して、お互いに尊重し支え合いながら、ともに生きていこうとする心を育てる。

●本時の展開(90分)
段階 学習の流れ(活動・内容) 留意点
導入
15分
1)世の中の弱者について聞き、学習のめあてを確認する。(15分)
● 世の中の弱者って、どんな人たちかな?
● お年よりかな。
● 病気の人かな。
● 障害のある人かな。
● ホームレスの人かな。
● 児童の実態に応じて話題を提供する。
● 世の中の弱者に注目させその存在に気づかせる。
● 児童から出ない場合は、教師から提示する。
● ホームレス襲撃等の新聞記事を紹介してもよい。
 【世の中の弱者について考えてみよう。】
展開
60分
2)DVDを視聴する。(30分)
3)自分の感想や考えをワークシートに書く。(10分)
4)グループや学級全体で話し合う。(20分)
● ホームレスの人たちの気持ち
● ホームレス襲撃の理由
● ホームレスの人たちに対しての見方、考え方
● 子どものいじめと世の中のいじめ 
● ワークシートを配布し、メモをとりながら視聴できるようにする。
● 特に心に残ったことを書けるように支援する。
● お互いの思いや考えを出し合い、考え方のよさを認め合えるようにする。
● 子どものいじめと世の中のいじめはつながりがあることに気付かせたい。
終末
15分
5)今までの自分を振り返り、自分の生活の中で生かしたいことを書く。(10分)
6)教師の説話を聞く。
● 人に支えられたり、人を支えたりすることで、生きる力が出てくること。(5分) 
● 振り返る時間を確保し、時間があれば、2~3名に発表してもらう。
・その他

 事前に、ホームレスの人たちに対する子どもの実態を十分把握しておく必要があります。また、道徳だけではなく、国語や社会科の学習や総合的な学習の時間等と関連づけて展開することも考えられます。事後は、学習したことを学級通信等で家庭にも知らせるとよいでしょう。

事後ワークシート(高学年)

「手を取り合って生きることについて考えよう」

1)DVDを見て、気がついたことや心に残ったことを書きましょう。
2)もし、あなたがホームレスになったら、どんな気持ちですか。
3)どうしてホームレスの人たちを襲撃してしまうのでしょうか。
4)今までの自分を振り返り、自分の生活の中で生かしたいことはなんでしょうか。

(作成:倉澤 良一)

感想文

<ぼくもいじめてた>

今日ぼくはこのDVD を見て感じたことは、たくさんありました。ぼくは、4年のころにホームレスの人みたいにいじめを同じ学年の子にやってしまいました。北村さんが言っていた ようにいじめをする人に100%責任があると聞いたりして、あのころは、自分自身を好きだと感じていなかったのかと後かいしています。
ホームレスの人達は、見たことがあるけどこのDVD を見るまでは、「ホームレスだ、きたねえだろうな」と心の中で思っていました。でも考えてみればあのころの考え方はまちがいだと感じました。その人達だっ て好きでそんな生活をしているわけではないし、色々な苦労があって本当はいやだったのになってしまったのだろうと思いました。(6年男子)

<お母さんは「近よっちゃだめ」という>
私はホームレスの人を何回か見たことがあります。お母さんは「見ちゃだめ!近よっちゃだめよ。」と言います。だからホームレスと言うと少し悪い?というかちょっといやな感じがあります。でも私はホームレスの人を見るたびに、かわいそうだなあとかさむそうだなあと思います。でも、DVD を見て子どもの里の人達は、おにぎりなどの食べ物を夜回りして配っているのを初めて知りました。すず木さんや川口さんも昔は仕事があった人もいるんだなあと思いました。そういう人達は1時間たったの90円の仕事でもがんばってやっていてすごいなあと思いました。そのような人達のために私達でできることがあれば進んでやっていきたいです。そして、ホームレスの人々をきたないとかいやだなあと思わないように、いやなイメージやいじめなどの差別がなくなればいいと思いました。 (6年女子)


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