高校

【教科・領域】

教科・領域

 公民科「現代社会」、「政治経済」、「総合的な学習の時間」

 公民科「現代社会」では、「現代社会と人間としての在り方生き方」の「個人の尊重と法の支配」で、「生命の尊重、自由・権利と責任、人間の尊厳と平等などについて考察させ、他者と共に生きる倫理について自覚を深めさせる」ことができる。また「現代の経済社会と経済活動の在り方」では、雇用、労働問題、社会保障について理解を深めさせるとともに、個人や企業の経済活動における役割と責任について考察させることができる。さらに、「共に生きる社会を目指して」で、「持続可能な社会の形成に参画するという観点から課題を探究する活動を通して、現代社会に対する理解を深めさせるとともに、 現代に生きる人間としての在り方生き方について考察を深めさせる」 ための課題に設定できる。

 「政治経済」では、「現代の政治」「民主政治の基本原理と日本国憲法」の「基本的人権の保障と法の支配」で、「望ましい政治の在り方及び主権者としての政治参加の在り方について考察させる」ことができる。また、「現代社会の諸課題」の「現代日本の 政治や経済の諸課題」で「地域社会の変貌と住民生活、雇用と労働を巡る問題」として取り上げ、「政治と経済とを関連させて探究」する中で、「持続可能な社会の形成が求められる現代社会の諸課題を探究する活動を通して、望ましい解決の在り方について考察を深めさせる」ことができる。

【本教材の特徴】

 多様な高等学校の実情に応じて活用できるようシンプルな2時限構成とした。第1時は、DVD(【本編30分】)視聴後、生徒に「ワークシート」を配布し,内容確認のための( )への語句記入や、各設問についての意見を求める。第2時では、生徒の意見をクラス全体に紹介した後、発展学習を行なう。学習指導案では、「メディア・リテラシー」の観点 からDVD製作者の意図や作品の構成を分析する授業過程を例示 した。高等学校段階ではDVDの内容を無批判的に受容するのではなく、批判的に吟味し、意図や描ききれていない点の分析が重要である。以下のような学習過程を想定できる。

 本DVD(【本編30分】)は、小学生らの「子ども夜まわり」を中心に、子どもたちと野宿労働者との出会い、心のふれあいの重要性などを伝えている。次に、野宿生活者の具体例として2人の60歳代の男性を取 り上げ、1人は元日雇労働者で高齢のため失職した事例、もう1人は 病気で失職した事例である。現状の脆弱なセーフティ・ネットのもと、誰 もが野宿生活に陥る危険性がある。ただし、最近、増加傾向の若者や女性の野宿生活者の問題、野宿生活での働き方、「空き缶集め」の様子や仕事づくりについて描ききれていない。これらを生徒に気づかせる(または教員が指摘する)ことより、さらなる知識を習得できる。

 次に、本DVDでは、2人の60歳代の男性が「野宿者襲撃」の被害者として描かれている。これは本DVD製作の主な目的が「野宿者襲撃」防止だからである。就寝中にそばのゴミに放火され、酔っ払いに傘 で突かれ、至近距離からエアーガンで撃たれるという被害者の証言は凄惨である。他方、夜まわりに参加した少女の「こういう年代の子らって、1人がそういう事をしだすと、みんな楽しいからみたいな感じでやっちゃう…」という語りは、各生徒への「なぜ同世代の若者が襲撃をしてしまうのか?」「襲撃を行なう若者の行動や気持ちを理解できるか?」という切実な問いの回答例を示している。さらに、夜まわりをしていた小学生が襲撃に参加した理由についても、「学校や家庭の中で、子どもたちが感じている息苦しさやしんどさがある」という回答例を示している。 それゆえ生徒たちが安易に同調して答える恐れがある。従って、高校生には、さらに突っ込んで加害者の心理や動機を考えさせたい。

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 本DVDが描ききれていない点の中でも重要なのが、行政や地域住民による「社会的排除」の実態である。公園にフェンスを巡らせ野宿 生活者を閉め出すなどの事例である。なお第2時では、上記以外の展開例として、以下の書物が大変参考になる。

(1)開発教育研究会編著『身近なことから世界と私を考える授業-100円ショップ・コンビニ・牛肉・野宿問題』( 明石書店、 2009年) 。「社会的排除」を示すフォトランゲージ「何か変だな」、ウェビング「なぜ野宿生活者への襲撃は起こるのか?」、ダイヤモンドランキング「野宿問題を解決するために」など。

(2)大阪府立西成高等学校編著『貧困学習-格差の連鎖を断つために』(解放出版社、2009年)。
「不公平なイス取りゲームから考える」など。
さらに時間的余裕があり、第3時の展開が可能であれば、DVD (【応用編45分】)を視聴させ、本DVD(【本編30分】)との内容比較を試みたい。

【ワークの特徴】

  1. 野宿者の暮らしを知る。
  2. 野宿者への襲撃事件の実態を知る。
  3. なぜ、生徒たちと同世代の若者が野宿者を襲撃するのか、加害者の動機や心理状態を考察する。
  4. 野宿者襲撃を防ぐにはどうすればよいか、考察する。
  5. 野宿者問題の解決策を考察する。
  6. 「メディア・リテラシー」の観点から、DVD製作者の意図と構成について分析し、DVDで描ききれていない事柄について理解を深める。

【ワークの展開】

  学習内容/学習活動 留意点
1 〔1時間目〕 DVD「『ホームレス』と出会う子どもたち」

(【本編30分】)を視聴。その後、「ワークシート」を生徒に配布し、語句を記入するよう指示する。

[発展学習]視聴前に生徒に、このDVDの製作意図と構成について、またDVD に描ききれていない事柄も考えながら、 よく視聴するよう指示する。

●DVD視聴後、「ワークシート」をしっか り仕上げるよう指示する。[発展学習]は、【問7】に記入する。
●時間が余れば、書いた内容(DVD作品 の分析内容、感想、意見など)を生徒に 発表してもらう。

●[発展学習]は、学校の実情 に応じて様々な展開が可能である。

●「ワークシート」を回収する。

2 〔2時間目〕 「ワークシート」を返却し、 各自の感想や意見を全体で共有する。

「なぜ同世代の若者が襲撃をしてしまうのか?」「同世代の若者たちによる襲撃行動を理解できるか?」 上記の問いについてクラスでディスカッション。

[発展学習]例:「メディア・リテラシー」の学習。

● 描ききれていないのは何か?
(回答例:若い野宿生活者、女性の野宿 生活者。「空き缶集め」や「ビッグ・イシュー」の販売員。社会的排除。)

「いじめや襲撃をなくすには、どうすればよいか?」
「ホームレス(野宿生活者)に私たちは何ができるか?」

●生徒の意見を、別のプリントにまとめて生徒に配布すると、他者の意見や感想を共有化できる。

●[発展学習]は、学校 の実情に応じた展開が可能である。

感想文

●面白半分で石を投げたり、蹴ったり。橋から突き落とすなんて許せない。一言で言えば言語道断です。その点、こども夜回りに参加していた子どもたちは夜遅いにも関わらず、おにぎりを作ったり、夜回りをしたりして優しいなあと思った。僕ならホームレスの人に話しかけたりは出来なかったと思います。僕も彼らにあったら声をかけたいと思います。「まだ若くて親がおるから僕らには関係ない」僕はそんなことは無いと思います。誰でもホームレスになりうるので嫌なら頑張るしかないと思います。それに、そう思うなら親に感謝すべきです。

●昼はいっぱい歩いてダンボールを集めて疲れてるのに、いつ何されるかわからんから安心して寝られへんというのが可哀そうだと思った。傘でつつかれたり、的にされて打たれたり、自分がされたらいややなと思った。安心して寝れるようになってほしい。

●ホームレスってめっちゃ怖いイメージがあった。DVD見て全然イメージちゃうやんと思った。まずホームレスって言葉で人を呼ぶことから間違ってるんちゃうかなと思った。みんな普通の人でいっしょの人間やって思った。